副社長は花嫁教育にご執心
あ、と思ったその時にはもう、柔らかな唇どうしが触れ、思わず息が止まる。
ま、まさか、こんなところでキスされるなんて……。
外はまだ明るいし、私たちの乗る車は、交差点の先頭。横断歩道を渡る人や、隣の車線にいる車からは見えてしまっているに違いない。
灯也さん、これはとてつもなく恥ずかしいんですけど……!
驚きで瞬きを繰り返すうちに、ちゅっと名残惜しそうな音を立てて離れて行った彼の唇。
それを追うように視線を動かして、元の位置に戻った彼の顔は何かに苛立ったような、じれたような雰囲気を醸し出している。
それがまたドキッとするような男っぽい表情で、ぽうっと見惚れてしまう。
やがて信号が青に変わって車を発進させた灯也さんは、休日仕様でナチュラルに下ろされた前髪を、気だるげにかき上げて言った。
「……ごめんな。我慢できなかった」