副社長は花嫁教育にご執心
第六章
懐かしい声
クリスマスを二日後に控えた翌日の夜。眠る前にスマホで料理レシピのサイトを眺めていた私は、隣に横たわる灯也さんに聞いてみた。
「灯也さん、クリスマスの日は、ケーキ以外に何か料理のリクエストはありますか?」
横向きの体勢で向かい合った彼は、途端に瞳をきらりと輝かせた。
「お、やる気ありそうじゃん」
「い、いえ、それにお応えできるかどうかは別として、とりあえず聞いてみただけです。そんなに期待しないでください」
なにせ、料理の腕はまだつい先日やっと基本中の基本、生姜焼きを覚えたというレベルなのだ。
夫婦で迎える初めてのクリスマス、彼のために何かしたいという気持ちだけ先走って、聞いてみてしまったけど……。
「俺はまつりが作ったものなら何でもいいよ」
「……それ、一番困ります」
「ホントだって。たとえば失敗したものでも、作ってくれた気持ちが嬉しいから、ちゃんと食べるし」
優しい瞳をして、灯也さんが宣言する。
そんな風に言われたら、もう作るしかないじゃない。遊太にでも連絡して、特訓してもらおうかな……。