副社長は花嫁教育にご執心


高卒で就職した佐助は、すぐに地方に転勤になってしまい、それからあまり連絡を取っていなかった。私が短大を卒業して就職するときに、勤務先を知らせたくらいだ。

つまり、直接顔を合わせるのは七年ぶりくらい? うわぁ、これはぜひ会いたい。

「もちろん。私も久々に会いたいし! でも帰ってきたって、一時的に? それとも……」

『それが、実はしばらくこっちで勤務することになった』

「うそー! よかったね。ご両親も喜んでるでしょ」

『そりゃな。でも、一番喜んでるのは俺かな。ずっと心配だったまつりのそばに戻ってこられて』
しみじみとした口調で言われ、当時の記憶が蘇る。


 * * *


あれは、両親が亡くなって二週間くらい経った頃だったかな。

葬儀やらなんやらで長い間学校を休んでいたためだいぶ遅れてしまった勉強を、放課後の教室に残って佐助に教えてもらっていたんだ。

「少しは、慣れたか? おじさんとおばさんいない生活」

ごく自然に尋ねてきた佐助に、私は素直に首を横に振った。

「……ううん。なんか、まだ実感ないんだよねえ。ひょっこり帰ってくるんじゃないかって気がしちゃって」

「遊太くんは?」

「ん……あの子は、いっつも泣いてる。枕を顔に押し付けてさ、頑張って声を殺してるんだろうけど……どうしてもね、聞こえちゃうの。私、なんて声かけてやるのが正解かわからなくて、結局何も言えないんだよね。お父さんとお母さんのことに触れたら、余計泣かしちゃう気がしてさ……」


< 136 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop