副社長は花嫁教育にご執心


電話を切って、ほくほく顔でふうと息をつく。

そしてスマホをヘッドボードに戻したところで、灯也さんの視線に気が付いた。心なしかその表情が険しい。

……ちょっと、大声で話し過ぎたのかもしれない。

「……友達?」

「はい。高校時代の同級生で……すみません、うるさくして。別の部屋に行けばよかったですよね」

布団の中に戻り、不機嫌そうな彼の表情を上目遣いでうかがう。

「いや、それは別にいいんだけど……その“友達”に、大事なこと言ってなくないか?」

「大事なこと?」

目を瞬かせてきょとんとする私に、灯也さんは無表情で天井を見つめて告げる。

「久々に話す友達なら、普通するだろ。……結婚報告」

「あっ!」

いけない、完全にうっかりしてた。灯也さんはそれで怒っているんだ。学生時代の友達だったから、つい当時のことばかりに気を取られてしまった。

「ごめんなさい……でも、明日彼お店に来てくれるみたいなので、その時には絶対!」

「……それは、接客中にすすんで私語をするということか?」

「う。いや、あの、その……」

そう言われると、困ってしまう。それにしても、灯也さんって、結婚報告を忘れたくらいでここまで怒るような人だったかな……。




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