副社長は花嫁教育にご執心
ああ、私に嫁ぎ先さえあれば……いや、ちょっと待って。嫁ぎ先なら、ちょうどよくあるような……。
ぽん!と頭に浮かんだのは、さっきまで一緒にいた支配人の、世迷言としか思えなかったあの発言だ。
『責任、取らせてやる。俺の嫁になることでな』
……あるじゃん、嫁ぎ先。しかも、支配人の言い方からして、即結婚でも構わないような空気だった。もしかして、これは神様がくれたまたとないチャンスなんじゃ……?
突然運命的なものを感じた私は、自分よりちょっとだけ背の高い弟の両手を取って、ぎゅっと握った。
「遊太。菜々ちゃんと結婚しな」
「え? だからそれは姉さんがお嫁に行ってから……」
「大丈夫。私も、結婚することになったから!」
首を傾げる遊太の顔には、疑問符がいっぱい張り付いている。そうだよね、急にどうしたんだって感じだよね。でも、嘘じゃないんだよ。
「相手はね、設楽ホテルズグループの御曹司なの。だから、私のことは何の心配もない」
「えっ? なんで? 勤め先で見初められた、とか?」
見初められたどころか、女子力の低さにお墨付きをもらっただけなんだけど……まぁこのさいその辺は割愛していいか。