副社長は花嫁教育にご執心
口ごもってしまう私を見て、灯也さんは気まずそうに頭を掻いた。
それからため息をつき、少し乱れた艶やかな黒髪を大きな手で撫でつけ、今度はまっすぐ私を見つめて苦笑した。
「……ゴメン。ちょっと、意地悪すぎたな。まぁ、接客はマニュアル通りにすればいいというものじゃない。特別世話になった相手に、ほかのお客様と同様の平素な接客じゃ、むしろ気を悪くされる場合もあるから、その場合は私語であっても必要なこともあるしな」
「えっと、つまり……?」
回りくどい表現が読み解けずにいると、灯也さんが今度はわかりやすく教えてくれる。
「明日、ちゃんと結婚報告しろってこと」
「わ、わかりました! 明日は絶対!」
必死にこくこく頷いた私に、灯也さんが目元を優しくゆるめて微笑む。
ああ……いいなぁ、その瞳。仕事中や、真剣になにかの本を読んでいる時の涼やかな目元も好きだけど、それがやわらかく細められた時の灯也さんが、個人的には一番……。
「私……灯也さんの笑顔が好きです」
心の中で呟いたつもりが、つい口に出してしまった。
灯也さんが少し赤くなって目を逸らしたのを見てそれに気が付き、慌てて寝返りを打ち彼に背を向ける。
な、何を恥ずかしいこと言ってんのよまつり……。しかも本人の目の前で!