副社長は花嫁教育にご執心
消えてしまいたいくらいの羞恥に襲われぎゅっと目を閉じる。その直後、後ろからあたたかい腕が伸びてきて、私の体をぎゅっと抱き寄せた。
どっきん! とあり得ないほどに心臓が跳ね、振り向くことができない。
それから私の耳に、灯也さんの柔らかな唇が後ろからそっと触れ、ささやいた。
「……まつり。今夜はずっと、こうしてお前を抱いたまま眠ってもいいか?」
甘い言葉と、吐息のくすぐったい感触に、びくっと肩が震えてしまう。でも、怯えているとかそういうわけじゃない。
灯也さんのぬくもりは、とてもドキドキする反面、やわらかな毛布のように心地いいものでもあるから。
「はい……。大丈夫、です」
「さんきゅ。まつり、いい匂いがする」
耳の裏側ですん、と鼻が鳴って、その動物的なしぐさにまた胸が早鐘を打った。
「と、灯也さんこそ……」
「早く、お前からも俺の香りがするくらいに……したいけど」
「香り……ですか。長く一緒に生活していれば、自然とそうなるんじゃないですか?」
「ばか。そういう意味じゃない」
灯也さんはそう言ったものの、じゃあどういう意味なのかということは教えてくれなかった。そのうち、規則的な呼吸音が聞こえてきて、彼が眠ってしまったんだとわかった。
「こっちは全然眠れませんけど……」
頭の中は疑問符でいっぱいになるわ、鼓動はいつまでも落ち着かないわ、その夜は眠るまでにかなり時間がかかってしまった。