副社長は花嫁教育にご執心
「今日、来てたのって知り合い?」
勤務後、ロッカー室に向かう途中、同じ時間帯のシフトだった久美ちゃんに聞かれた。私は「うん」と頷き、佐助について詳しく説明する。
「高校の同級生。今まで地方に転勤してたんだけど、東京戻ってきたんだって」
「そうなんだ。元カレとかなのかな~って勘ぐっちゃった」
わざとらしくにやりと微笑まれ、私は顔の前で手をひらひら振った。
「まさか。佐助はそういうんじゃないよ。でも、大事な友達」
「ふうん……?」
「ほら、うちの親って私が高校の頃に亡くなったんだけど、その時彼にはたくさん励ましてもらったんだ。……ホント、佐助っていい奴でさ」
当時を懐かしんでしみじみ話した私に、久美ちゃんも納得したようだ。
「なるほど、まつりちゃんが一番つらい時に支えてくれたんだね。とはいえ、今は支配人が一番大切で大好き、と」
「……うん」
私は素直にうなずいた。
少し前までは恥ずかしさに負けて「やめてよ~」なんて言っていたけど、最近は灯也さんと夫婦なんだってことが身に沁みてきて、少しは胸を張れるようになってきた。
そんな私に、久美ちゃんはやれやれと言いたげな調子で「ごちそうさま」と言った。しかし嫌味っぽくはなく、本当に祝福してくれている様子なのがうれしい。
こうして惚気を聞いてくれる友達って言うのも貴重だよね。ホント、久美ちゃんが同じ職場にいてくれたよかったよ……。