副社長は花嫁教育にご執心
ふたりでロッカー室に着き、それぞれ鍵が差しっぱなしになっている自分のロッカーに手を掛ける。
基本的に職場に貴重品は持ってこないようにしていて、着替えくらいしか入れないために、私も久美ちゃんも鍵を閉める習慣がないのだ。
さて着替えるか。といつものようにロッカーを開けると、中からひらりと一枚の紙が落ちた。宙を舞うように落ちたそれは、ちょうど私の足の上にぱさりと乗っかる。
何だろ……。こんなの、入れておいた記憶ないけど。手に取って、そこにいくつか並ぶ、パソコンで打たれたような文章を見た。
その瞬間、全身の血の気が引いて、鉛でも飲み込んだように胸が重たくなった。
【設楽まつりは男狂い】
【夫が本社に行っている間にほかの男と会う二股女】
【結婚してから頭の中お花畑でミス連発】
【仕事もできないのに支配人のコネで辞めさせられない上司の身にもなれ】
【今すぐ辞めろ】
「な、何これ……っ!」
私より先に声を発したのは、久美ちゃんだった。
彼女はあまりのショックでその場に棒立ちになる私の手から紙を奪い、怒りのままにびりびりと破く。