副社長は花嫁教育にご執心
通用口から外に出ると冬の冷たい風に頬を刺され、瞳にじわっと涙が浮かんだ。
早く早く、灯也さんに会いたい……。あの優しい瞳に、慰めて欲しい。そんな気持ちで何気なくバッグからスマホを取り出すと、思い焦がれる彼からメッセージが来ていた。
【ごめん、今日、仕事バタバタして遅くなる。夕飯はいらないから、先に寝ていて】
心細い私の気持ちとは裏腹な内容に、思わず目に溜まっていた涙がこぼれた。
仕事なんだから、仕方ない。灯也さんは支配人で副社長で、忙しいひとなんだから。
自分にそう言い聞かせてもなかなか寂しい気持ちがぬぐえず、鼻を啜りながら自転車置き場に向かう。そのとき、後ろから誰かに声を掛けられた。
「まつり!」
白い息を吐き出しながら駆け寄ってきたのは、昼間椿庵に来てくれた佐助だった。
「佐助? ……どうして」
「お前が仕事終わるの待ってたんだ。昼間、言えなかったことがあったから」
言いながら近づいてきた彼だけど、私が泣き顔であることに気付き、穏やかだった表情が一瞬で険しくなる。
「どうしたんだよ、その顔……」
「なんでも、ない……」
「なんでもないことないだろ。つか、俺の前では昔も散々泣いたんだ。今さらブサイクだとか思わないから、泣きたいだけ泣けよ」