副社長は花嫁教育にご執心


うう、佐助……。優しくしないでよ。余計に泣けてきちゃう……。

思わず「ふえっ」と情けない泣き声を漏らした私を見て、佐助は遠慮がちに聞いてくる。

「今、ダンナは?」

「仕事、中……今夜は、遅くなる、って」

とぎれとぎれに話す私に、佐助は一度舌打ちをした。

精神的に弱っている私はそれだけでびくっと怯え、何か悪いことを言ってしまったかと不安になったけれど。

「……くそ。俺の道徳心、弄んでんのかよ」

「……? 佐助、何言って」

彼の発言が理解できずに言いかけた途中で、私は彼の腕に強く抱きしめられた。

灯也さんとは違う男性の香りに包まれ、私はどうしたらいいのかわからずに、ただ濡れた瞳を瞬かせる。

「昼間、言いそびれた……つーか、言うのはやめようと思って、心にしまって……今の今まで言うか悩んでたことあったけど、お前の泣き顔見たら、黙ってられねーわ」

つらそうにかすれた声が、耳元で震える。

「好きだ……まつり。高校の時からずっと、お前が好きだった」

「え……?」

うそ……。佐助はずっと仲のいい友達で、だからこそ異性とか意識したことがなかった。

その思いは、彼の方も同じだとばかり……。


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