副社長は花嫁教育にご執心
「ま、まあそんな感じ。っていうか、私から遊太への話しって、その相談だったの。彼と結婚しようと思うんだけど、いいかなぁって」
「い、いいに決まってるよ! 父さんと母さんにも報告しなきゃ! 姉さんが玉の輿だって!」
興奮した遊太は、さっそく仏壇の前に正座して、父と母の写真に話しかけている。
そういえば遊太って、私より女子力が高くて家事や買い物をほとんどやってくれるせいか、経済感覚がけっこうシビアなんだよね。だから、御曹司と聞いて目の色変わったみたい……。
その横顔があまりにうれしそうでホッとする半面、底知れぬ不安も沸いてきた。
これは、完全にもう後戻りできない……。
あの設楽灯也さんと結婚するとなったら、そりゃ遊太が期待するように経済的な苦労はないだろう。でも、結婚生活に一番大事な“あれ”が、私たちの間にはないのだ。
「俺、菜々ちゃんのとこ行ってくる!」
「あ、うん。……頑張って」
忙しなく部屋を後にした弟を見送ってから、私も仏壇の前に座った。
父と母が肩を寄せ合って並ぶ笑顔の写真を手にして、恋愛結婚だったふたりに向かって問いかける。