副社長は花嫁教育にご執心
「わかった。……ごめんな、強引なことして」
「ううん、私が、弱気なとこ見せちゃったから」
「あとで、思う存分ダンナの胸で泣かせてもらえよ」
からっと笑う佐助は、わざといつも通りにしてくれているみたいだ。それが少しせつなくて、けれどありがたかった。
今まで通りの友達に戻るのは無理かもしれないけど、私にとってやっぱり佐助は、大切な友達だ。
「うん。そうする。……ありがとう」
「幸せにな」
「うん。……佐助もね」
私の言葉に黙って頷き、佐助はくるりと踵を返した。
遠ざかっていく背中を見送り、私も再び自転車置き場に向かい歩き出す。泣きたい気持ちは次第に落ち着いたけれど、ひとりになってしまうと、頭の中にはロッカー室の一件が蘇った。
あんなことをするのは、同僚の中の誰? 噂好きのパートさん? それとも、社員の誰か?
マンションに帰り、軽い食事と入浴を済ませた後は灯也さんに相談しようと彼の帰宅を待ってみたけど、深夜近くになってもなかなか帰ってこなかった。
仕方なくベッドに入ると、ほんのり残っていた灯也さんの香りがささくれ立っていた心を少しだけ癒してくれた。
本当は、本人に抱きしめてもらえたら一番だけれど……。
広いマンションにたった一人の夜。心細い気持ちを抱えつつも、前日の寝不足のせいもあってか、私はそのまま眠ってしまった。