副社長は花嫁教育にご執心
「仕事、無理かも……」
一旦靴を脱ぎ、よろよろと廊下を引き返す。
倒れ込むようにリビングのソファに座ってバッグからスマホを出し、少し悩んでから電話をした先は、久美ちゃんの携帯番号。
今日彼女は本当は休みなのだけど、出勤を代わってもらえないかと頼むためだ。
まだ寝ているかもと思ったけれど、久美ちゃんはすぐ電話に出てくれた。
「あ、もしもし久美ちゃん? こんなぎりぎりの時間に申し訳ないんだけど、ちょっと体調が悪くて、もしできたら出勤代わってもらえないかなって……」
『大丈夫? 私、特に予定なかったから大丈夫、代われるよ』
迷うことなく了承してもらえ、胸をなでおろす。
「ホント? ごめんね、私明日休みだから、そこと交代してもらえれば……」
『いいよそんなすぐじゃなくて。明日体調が治ってる保証もないし、今夜はイブで明日はクリスマスだよ? 休めてラッキーくらいに思って、支配人と一緒に楽しんで?」
久美ちゃん……あなたは神か菩薩ですか。
休日が潰れてしまって、しかも今日はクリスマスイブ、かつ今年はたまたま日曜日で、それなりに施設は混む。
そんな日に交代してくれと言われたら、嫌な顔してもおかしくないのに。