副社長は花嫁教育にご執心


『久美ちゃん……ありがとう。久美ちゃんがピンチの時、私絶対に助けるから』

「おおげさだよ。じゃあね、仕事のことは気にせずお大事に」

『ホントにありがとう……よろしくお願いします』

電話の向こうの彼女には見えないけれど、思わずぺこりと頭を下げて、電話を切った。

とりあえず、今日は休める。よかった……。

ふうと息をついてソファに背中を預け、しばらくぼんやりしていたけれど、十分ほど経過したころ、ふと気が付いた。

「頭痛、治ってる……?」

それだけじゃない。吐き気もだ。というか、むしろすこぶる健康体……。

なんで? もしかして、仕事に行かなくていいことになったから? まさかとは思うけど、そう考えると納得がいってしまう。

実は、弟の遊太が昔そうだった。

両親が亡くなった直後、学校に行きたくないとふさぎ込んで、無理やり行かせようとするとお腹が痛いと言った。

遊太のそれは一時的なもので自然とよくなり、今では忘れかけていた出来事だけれど、今の私はあの時の遊太の状態に近い気がする。

となると、体調不良は精神的なものということになる。例の嫌がらせの件が、私の心にそれほどの影を落としていたなんて……。


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