副社長は花嫁教育にご執心


そう、胸の内で語り掛けながら、涙をいっぱいにためた瞳で灯也さんを見つめる。

けれど彼は私からふいと目を逸らし、黙ってシャワーを止めるだけ。

「灯也さん……」

「ごめん……今日は俺、リビングで寝るから」

バスルームに私を取り残し、出て行ってしまう灯也さん。滴る水の音だけが、周囲に響く。

「う、うええ……っ」

やがて、堤防が決壊したかのように泣き崩れた私は、バスルームの隅で膝を抱え、びしょ濡れの体もそのままに、ひとり肩を震わせた。

泣きはらした目でリビングを通った時、灯也さんはすでに寝ているのかそれとも寝たふりなのかわからないけれど、ソファに寝ころんでいて話しかけられる雰囲気ではなかった。

私は言おうとした「おやすみなさい」をぎゅっと唇を噛んで飲み込み、とぼとぼ寝室に向かうしかなかった。


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