副社長は花嫁教育にご執心
一昨日の夜に、電話をしてきたのは、その“男友達”ではなかったか。
そして、電話の翌日……つまり昨日、彼は椿庵に来店すると、まつりに話していた。まさか、そいつが……?
無言で思考を巡らせる俺に、藤田久美はさらに言葉を続ける。
「よくよく聞いてみたら、その人には、高校の時に支えてもらっていたそうなんです。まつりちゃんってご両親を亡くしているじゃないですか。その時彼がそばにいてくれて、すごく救われたって。特に付き合ったりはしなかったけど、彼のこと心の中でずっと大切に思っていたそうなんです。だから、久々に再会してその気持ちがきっとまた……」
彼女の話は、勝手な憶測にすぎない。頭では冷静に思うことができても、胸の中はいやに熱くて、黒い感情がぐるぐると回る。
彼と電話していたときのまつりは、確かにとても懐かしそうで、うれしそうだった。
俺の前で見せるのとは違う、リラックスしたような気楽さで、軽口なんかも言ってて。
それから……そう、結婚報告を、忘れていたんだ。
まつりのことだから本当にうっかりしたのだと思っていたが、まさか彼には言いたくなくて……?
そういえば、今朝は俺に何か話があるようなことを言っていた。まさか、初恋の相手に再会して、俺と別れたくなった、なんてこと……ないよな。