副社長は花嫁教育にご執心
「ねえ、お兄さんひとりなの?」
カウンターでひたすら酒をあおっていた俺に、二、三歳年上と思しき女が声を掛けてきた。
時代遅れのソバージュ、きつい香水の香り、濃すぎるメイク、体のラインを強調するタイトなワンピース。
なんか異様にバブリーな女だな……全然好みじゃない。俺は虚ろな瞳でそんなことを思うのと同時に、無性にまつりに会いたくなった。
しかし、彼女の方はそうじゃない。初恋の相手を想って、俺のことなんて――。
「……結婚してますから」
とりあえずそう言っておけばバブリー女も引き下がるかと、俺は軽くあしらう。
「奥さんに不満とかない? 私ね、料理に自信があるの。きっとあなたの好きなものだって作ってあげられる」
しかし女はめげずに腕を組んできて、ふくよかな胸をぎゅむぎゅむと押し付けてきた。
自分の魅力に自信があって、おまけに料理も得意、か。それは素晴らしいことだが、俺がそそられることはない。
俺の心が求めるのは、料理も化粧も苦手で、けれど日ごとに可愛く、きれいになり、一所懸命にキッチンに立つ嫁だけだ。
女のしつこさに心底げんなりしていたその時、カウンターに置いていた俺のスマホが短い音を立て、まつりからのメッセージを画面に表示した。