副社長は花嫁教育にご執心
【今日は、朝体調が悪かったので仕事を休みました。小柳さんが自宅にいらして、何か誤解をされたようでしたが、家に来ていたのは弟の遊太です。そのことを直接お話したいので、今夜は寝ないで灯也さんの帰りを待ってます】
帰りの遅い俺を心配しているのかと思いきや、妙に長い文章で、言い訳じみた言葉が並んでいる。
そのメッセージを素直に受け取ることなんてできず、俺の苛立ちは増すばかりだった。
「奥様が帰って来いって? いいじゃない無視しちゃえば。今夜だけ、ねえ、いいでしょ?」
「……悪いけど」
ガタッと席を立ち、会計を済ませた俺は、最後にその粘着系バブリー女をちらりと一瞥していった。
「俺、あんたじゃ勃たない」
俺の放った品のない暴言にバブリー女は顔を真っ赤にし、フンとそっぽを向いてカウンターに向き直った。
ああ……他人に当たるなんて最低だな俺。
だからって、今家に帰ってまつりと顔を合わせたら、嫉妬にまみれた今の自分がどうなるかわからない。
メッセージには【寝ないで待っています】とあったけど、とても冷静に話し合える気分じゃない。
しかし、店を出ても行く当てはなく、まつりと顔を合わせたくない反面、彼女の待つ家に帰りたいという矛盾した気持ちが心の中で同居していて、知らず知らずのうちに俺の足はマンションに向かっていた。