副社長は花嫁教育にご執心
「や、めて……っ……と、やさ、ん……」
シャワーの降り注ぐ音に紛れて、涙声を混じらせた抵抗が聞こえ、俺の中の冷静な部分がやっと戻ってくる。
「まつり……俺……」
「灯也さん……いやです、こんなの……」
まつりのぐしゃぐしゃな泣き顔を見て、俺は自分のおかした過ちにやっと気が付く。
俺は……一番大切にしなきゃならない相手に、今、何をした……?
俺は、まつりにこんな顔をさせたかったのか? 傷つけたかったのか?
自問自答を繰り返しながら後悔する俺を、まつりが心配そうに見つめる。
「灯也さん……」
「ごめん……今日は俺、リビングで寝るから」
しかし結局気持ちの整理がつかず、その場は逃げるようにして、彼女の前から去ることしかできなかった。
その後、ソファに横になってみたものの眠れる気配などなく、ずっと考えていた。
どうして俺たちはこんなことになってしまったのだろう。
今までにもすれ違うことはあったけど、ひとつずつ乗り越えて、着実に愛情を育てていたはずなのに……どこかで、ボタンを掛け違えてしまったような、違和感がある。