副社長は花嫁教育にご執心
俺は今まで俺とまつりの間に起った出来事を、ひとつつひとつ思い返し、その原因をなんとか探ろうと試みる。
杏奈の件では、俺がまつりに疑われるようなことをして、彼女を傷つけてしまったけれど。真実を知った彼女は俺を責めるどころか、『私は、灯也さんがそんな優しい人で良かった』と俺に寄り添ってくれた。
勝手なところのある俺の両親の前でも頑張って笑って、俺の好きな母のチーズケーキを練習するって、張り切ってくれて。
二人で過ごす初めてのクリスマスに、ガラにもなく胸を高鳴らせていた最中、現れたのが例の男友達だ。
最初はまつりから説明された通りの“男友達”なんだろうと納得していたものの、今朝支配人室にきた椿庵の従業員、藤田久美の言葉で、俺は嫉妬心を抱くことになって。
あれさえなければ、自宅に小柳を向かわせることだってなかったんだけど――。
そこまで考えて、どくんと心臓が揺れた。
「まさか……」
頭に浮かんだひとつの可能性に、俺はぞくりと寒気がした。