副社長は花嫁教育にご執心
「ま、まつりちゃん……あのね、今のは」
苦笑いを浮かべ、“違うんだよ”と主張するように、両手を振る久美ちゃん。
この期に及んで誤魔化そうとするなんて、往生際が悪すぎるんじゃないかな。ねえ、あんなこと言った後で、まつりちゃんなんて、親し気に、よく呼べるよね。
でも、私のことなんかどうでもいい。私が一番許せないのは、灯也さんに嘘をついたことだ。
彼にあんな……あんな、傷ついた顔させて……本当に、許せない。
拳を握りしめ、奥歯をぎり、と噛んで悔しさに耐える私を見て、オロオロしていたはずの久美ちゃんの態度が変わった。
開き直ったようにふふふっと笑い出し、馬鹿にしたような瞳を私に向ける。
「そう、今のは……私の本心。今までの嫌がらせは全部、まつりちゃんがそうやって悔しがる顔を見たかったからやったことなの。ごめんね?」
誠意のかけらのない謝罪に、さらに頭に血がのぼった。
ごめんだなんて思ってないくせに。
私が嫌がらせに悩んでいる姿を、相談に乗るふりをしながら腹の中で笑っていたくせに。
「最低……っ!」
もっともっと怒鳴りたいし、むしろ一発殴りたいくらいに頭にきているのに、あまりの怒りで、それくらいの言葉しか出てこない。