副社長は花嫁教育にご執心
「支配人……!」
久美ちゃんとパートさんがぎょっとして目を剥いた。しかし、妻である私も同じように驚いていた。
「と、灯也さん……?」
なんでここに? 家で寝てたはずでは……!
「もうちょっとで完全犯罪だったのに、残念だったなぁ。うっかり口を滑らせたのが運の尽きだ」
そう言って、灯也さんがスマホを操作すれば、記憶に新しいある会話がそこから聞こえてきた。
『そう、今のは……私の本心。今までの嫌がらせは全部、まつりちゃんがそうやって悔しがる顔を見たかったからやったことなの。ごめんね?』
卑劣な暴言は二度目でも聞き慣れることはなく、私の心を深くえぐった。けれど、その反面灯也さんの言ったことにも納得できた。
物的な証拠はないけれど、彼女の口から出た言葉こそが、証拠になるんだってこと。
私が思い至るのと同時に、久美ちゃんの顔も悔しさに歪む。
顔を真っ赤にし、鼻の穴をふくらませる彼女に、灯也さんはさらに畳みかけた。
「これだけハラスメントハラスメントと騒がれている現代において、未だにこんなしょーもない嫌がらせをする奴がいるとは、俺も驚いたよ。就業規則にも書いてあるが、読めない馬鹿がいるかもしれないんで改めて言わせてもらう」