副社長は花嫁教育にご執心


灯也さんはごほんと一度咳払いをし、記憶をたどるように頭に人差し指を当てながら、彼の頭の中にあるらしい就業規則の条文を読み上げた。

「客観性に欠く私情の入った個人攻撃により、他の労働者に精神的、肉体的苦痛を与えた場合、減給または出勤停止、度を超えると懲戒解雇に処する。……と、確かこんな感じだったはずだ。さて藤田久美さん、あなたの処分はどれに当たるでしょうね」

灯也さんの厳しい眼差しが、久美ちゃんに突き刺さる。彼女の表情からは怒りが消え、むしろ青ざめていた。

施設のトップである支配人にこう責められては、白旗を上げるしかないのだろう。しかし、灯也さんは鋭く目を細めると、さらに容赦なく言葉をぶつけた。

「今のはただの堅苦しい会社の決まりだけどな。それとは別に、まつりを傷つける者はこの俺が許さない。……肝に銘じておくんだな」

灯也さん……。その激しい怒りの裏側には彼の愛情を深く感じられ、胸がぎゅっと締め付けられた。

その決め台詞でさすがに居たたまれなくなったのか、久美ちゃんは逃げるように、出入口のドアがあるこちら側に近づいてくる。

すれ違う一瞬目が合ったけれど、すぐにぷいと逸らされてしまい、ひどいことをされた後だというのに、寂しく思う自分がいた。

彼女の内心はどうあれ、私はずっと友達だと思って慕っていたんだもん……彼女の笑顔が全部嘘だったというのは、なかなか受け入れがたい。


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