副社長は花嫁教育にご執心
「わ、私も失礼しま~す」
そんな調子のいい声で、パートさんの存在を思い出す。
灯也さんの様子にすっかり怯え切った彼女は久美ちゃんの後を追うようにロッカー室を後にし、最後には私と灯也さんが残された。
「灯也さん、あの……」
「まつり、一旦ストップ。ここ、実は女子ロッカー室だから、俺セクハラとか言われたらちょっとマズイ。……さっきの流れの中で、それ指摘されたらどうしようかと、内心ひやひやしてたんだ」
あ、あんなに堂々としていたのに、そんなこと気にしてたんですか。
思わずくすっと笑った私に、灯也さんが優しく目を細める。
「やっと、笑顔が見られた」
「え?」
「最近、悲しい顔させてばっかだったからさ。……とりあえず、俺の部屋に行こうか」
灯也さんの優しい瞳に促され、施設の三階にある支配人室へ向かう。
まだ、彼とのわだかまりがすべてなくなったわけじゃないけれど、私たちの間を流れる空気は穏やかだった。
灯也さんは無言で先を歩いていたけど、昨日のような苛立ちのオーラは一切なく、その後ろ姿はどこか優し気で。
「さ、どうぞ」
「……し、失礼します」
初めて入ったその部屋は、いかにもお偉いさんの部屋という感じで、高級そうなデスクやソファセットが置いてあり、なんとなく緊張してしまう。
「座って」と言われてソファに腰を沈めると、すぐ隣に灯也さんも腰かけた。それから開いた足の上で手を組んだ彼が、前を向いたまま話し出す。