副社長は花嫁教育にご執心


「今朝、まつりが出て行くのに気づいて、俺も車ですぐ追いかけたんだ。まつりが、何かしでかしそうな気がしたし、俺も職場で確かめたいことがあったから」

「そうだったんですか……」

「まつりがロッカー室に入って行ったその後で、俺も中の会話を聞いてた。録音しながらな。で、初めて知ってびっくりしたよ。まつり、ずっと陰湿な嫌がらせに耐えてたのか」

私を気遣う穏やかな眼差しに瞳を覗かれ、素直に頷いた。灯也さんはため息をつき、小さな子どもを咎めるようにして尋ねてくる。

「どうしてもっと早く相談してくれなかった?」

「一番は、迷惑をかけたくなかったからです……。灯也さんは忙しい人だから、あまり煩わせてはいけないかなと。あと、灯也さんのお母様が昔、そういうことに耐えていたというのを聞いていたので、私もひとりで耐えなきゃ嫁失格かな、なんて思ったりもして……」

私の勝手な思い込みを、灯也さんは即座に否定した。

「迷惑なんかじゃない。むしろ、まつりが苦しんでるのに気付けなくて、俺の方こそ夫失格だ」

逆に謝られてしまい、私は慌ててかぶりを振る。

「そんなこと!」

「何があっても守るとか言っておいて……昨日は、自分勝手な嫉妬で、お前を傷つけた。ごめんな」


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