副社長は花嫁教育にご執心


「まつり……ああもうほんと、ごめんな。こんなに可愛い奥さんなのに、俺」

「灯也さん、くるしいです」

「ごめん、でも今は離したくない……」

子どもみたいになってしまった彼が微笑ましくて、私もそっと彼の広い背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめ返した。

「今夜は、最高のクリスマスにしような」

甘い声でささやかれて、「そうですね……」と幸せいっぱいな気持ちで返事をする。しかししばらくして、はっと我に返った。

クリスマス……今日はもう当日じゃない! うっかりしてた!

「灯也さん! 早く帰りましょう! 私、赤ワインで牛肉煮込まなきゃ!」

そうだ、その料理を遊太に教わっていたまさにその時、小柳さんが現れてひどい誤解をした挙句、私をゲス不倫タレントに仕立て上げたこと、あとで灯也さんにきっちり告げ口しますからね。

「なにそれ、うまそう。ケーキはどうする? 帰りに買う?」

「ふふふ、もうできてますよ。冷蔵庫開けてびっくりしないでくださいね?」

灯也さんが目を輝かせて「もしかしてチーズケーキ?」と聞くので、私は得意顔で頷いた。

昨日の鬱々した気持ちに負けず、頑張って焼いておいてよかった。

さあ、楽しいクリスマスの始まりだ!


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