副社長は花嫁教育にご執心
そう言ったものの、灯也さんの返事がない。かすかに振り返れば、いつもは涼し気な瞳がわずかに潤み、その眼差しは熱をはらんでいた。
「料理もケーキも、すごく嬉しいんだけど。さらにもうひとつプレゼント欲しいって言ったら、怒るか?」
甘さを含んだ低い声に囁かれ、彼の言う“プレゼント”ってまさか?という予感がよぎる。
でも、私の勘違いかもしれないし、そうだったら勝手に何を期待てるのって感じで恥ずかしすぎるし……。
私は胸の高鳴りを隠しつつ「何が欲しいんですか?」と尋ねた。
灯也さんは切なそうに吐息をひとつこぼした後、私の腰に回した腕にぎゅっと力を込めて言った。
「まつりの、全部」
どっきん、と全身で鼓動を感じるほどに、大きく心臓が跳ねた。
いつか久美ちゃんに言われた言葉で、“私たちまだなのかな?”って、不安と焦りに襲われていたときは、あえて私を抱かなかった灯也さん。
今考えれば、あの時はまだ、惹かれ合ってはいても胸を張ってお互いを想っていたとは言えなかったと思う。
灯也さんはきっとそれに気づいていて、けれど今なら、お互いの想いに確固たる自信があるんだ。