副社長は花嫁教育にご執心
「あの、実はうちの家族、弟が一人いるだけなんです。両親は、私が高校生の頃に他界してて」
事実だけを短く告げた私に、支配人は神妙な面持ちになった。
「……それはさぞかし苦労しただろ。そうか、姉として家のことで忙しいから、自分の美容とかに構ってる暇がないんだな」
えーっと……。気の毒そうにしてくださってるとこ悪いのですが、私の女子力が低いのは、そのせいではないんだなぁこれが。
「いや、家事は……全面的に弟がしてます」
支配人の涼やかな瞳が、キョトンと丸くなる。
あ、やっぱり、意外ですよね……姉と弟という組み合わせで、母親の代わりに家事をするのが弟っていうパターンは。
「だから……私、料理も洗濯も掃除もできないんです。それを心配した弟が、彼女との結婚を遠慮していて、私、申し訳なくって。だから……」
私はそこで言葉を切ったけれど、支配人はその先が簡単に予想できたらしく、ふうとため息をついてから代わりに口を開く。
「なるほど。俺と結婚すれば、弟に心配かけることなく、彼自身も結婚に踏み切れてちょうどいいってわけか」
ああなんか、支配人にしてみればすごい打算っていうか下心ありまくりの理由だよね……。
急に後ろめたくなって、私は顔を隠すように俯く。