副社長は花嫁教育にご執心
「なんですって……?」
灯也さんが、三井と呼ばれた小太り男性に、鋭い瞳を向ける。しかし、風船男三井さんは飄々とすました顔で語る。
「設楽くん、きみまだ三十歳なんだって? その若さで副社長なのは、あれだろ? ただ社長の息子だからっていう、いわゆる親の七光りってやつ。そんなヤツの言いなりになって大事な土地を売ったら痛い目見ますよって、僕は会長に忠告してあげたんだよ」
な、なにこいつ……。灯也さんが親の七光り? 自分の方がよっぽどテカってるくせに!
ツヤめくその額を見ながら内心憤慨する私に対し、灯也さんは彼を無視して会長に問いかけた。
「こんな男のくだらない言葉を真に受ける会長ではありません。……何かお考えが?」
自分を無視された挙句、“こんな男”だの“くだらない言葉”だのと言われ、三井さんは口元をひきつらせた。
さすがは灯也さん。簡単な挑発なんかに乗らない。
「……それは、綾子(あやこ)さんに聞いてもらおうか」
会長が視線を向けた先は、今まで奥ゆかしい様子で黙っていた、三井さんの奥様、綾子さん。
彼女は着物の袖で口元を隠しクスッと不気味に微笑んだかと思うと、ハンドバッグから数枚の写真を取り出した。