副社長は花嫁教育にご執心
「こちらには、証人がいるんです」
勝ち誇ったように言って、彼女が取り出したのは小型のICレコーダー。
いったい、そこに何が録音されているというの……?
怯える私の横で、灯也さんも心当たりがないという風に怪訝そうな表情だ。そんな私たち夫婦を嘲笑うようにフフッと笑った綾子さんが、録音を再生する。
『……すごく疲れているというか、寂しそうというか。そんな様子だったので声を掛けたら、奥様に不満があるんだって話していました。お酒も、かなり飲まれていて……私、別にやましい気持ちとかなく、心配だったから、話を聞いていたんですが、そのうちに……』
若い女性の声がそう話す途中、綾子さんが一旦再生を止めた。そして、灯也さんに向かって問いかけた。
「この女性の声に、聞き覚えがあるんじゃなくって?」
「……ありませんけど」
「さっきの写真と併せてお考えになれば、わかるんじゃないかしら」
「写真?……じゃあこの女性はもしかしてあの時のバブリー女……? いやでもこの内容は……」
私はまったく聞き覚えのない女性の声だけれど、灯也さんにはなんとなく思い当たるふしがあるようだ。