副社長は花嫁教育にご執心


「……はい。でも、支配人だってそんな出来損ないの嫁、欲しくないですよね」

「誰がそんなこと言った? むしろ、逆だよ」

「え?」

パッと顔を上げた先には、なぜかキラキラ瞳を輝かせてうれしそうな支配人がいて。

「何にも染まっていないお前を、自分好みの嫁に育てられる。これ以上幸せな結婚生活があるか」

じ、自分好みの嫁……? なんか、ちょっと危険な響きがあるような。支配人ってば、まさかとんでもないDV夫とかモラハラ夫になったりしないよね?

「その、嫁としての教育ってものは……厳しいものでしょうか? 基本ズボラな私でもできそうですか?」

こわごわ尋ねた私に、支配人は少し考えるそぶりをした。それから彼の視線はなぜか私を飛び越えて、再びテーブルの上のカツ丼へと注がれた。

「例えば、そうだな……それ、食べさせてくれ」

……はい? 急に何を言い出すのこの人。お腹が空いてるってこと?

私はとりあえず、まだ未使用だった箸とどんぶりを手に持ち、彼に差し出す。

「どうぞ」

しかし、彼は一向に手を出さない。

「食べさせてくれって、言ってるだろ」

「え?」

「だから……」

ちょっと苛立ち気味に言いながら、箸も丼も私の手から奪い取った支配人。

そしてひと口分のカツ丼を箸ですくい、私の口もとへ持ってきた。


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