副社長は花嫁教育にご執心
「まぁいいわ。続きを聞いてみましょう」
再び再生ボタンを押した綾子さん。小さな機械から聞こえる女性の声が、先ほどより暗いトーンで語り始める。その内容は、あまりに衝撃的だった。
『……お店の人からは見えない角度で、彼、胸を触ってきました。怖かったんですけど、相手が設楽なんとかっていう会社のの御曹司だって途中で気づいて……たとえ訴えたとしても、きっとお金の力でなかったことにされてしまうって思いました。だから私、警察に言うより、こうして雑誌社の人にお話しすることに……』
泣き声混じりのその声は、真実味を帯びていた。でも、とうてい信じられる内容ではない。
だって、灯也さんがそんなこと……するはずないもの。ねえ、灯也さん、そうでしょ?
胸の内で語り掛けていると、テーブルの端で重い口を開いたのは黒川会長だった。
「……金婚式の時。きみにまつりさんを紹介されて、いい夫婦になるだろうなと思った。心から、応援してやりたいと思った。……しかし、この写真と録音だ。録音は虚偽だとしても、写真に写っているのはどうやらきみのようだ。たとえこの夜は何もなかったのだとしても、こんなものを撮られてしまうことがそもそも、問題ではないのか」
会長の厳しい言葉に、私まで胸が痛くなる。灯也さんと会長との間に会った信頼の揺らぎが、ひしひしと伝わってくるようだった。