副社長は花嫁教育にご執心
「私からもひとこといいかしら」
そのとき、今まで神妙な面持ちで黙っているだけだった鈴子さんが、初めて声を発した。
会長同様、灯也さんを責めるような言葉だったらどうしよう。
不安を抱えながら見つめた先で、奥様は静かに、けれど凛とした口調で話した。
「まつりさんはね、今この瞬間も、きっとあなたを信じていると思う。でもその反面、少なからず傷ついているわ。だって、妻だもの。あなたの全てを信頼して、人生を預けたの。信じているからこそ、つらいはずよ。彼女の気持ち、よく考えてあげてください」
鈴子さん……。五十年間会長に寄り添い生きてきた彼女の口から出る言葉には、深い説得力があった。
私は、灯也さんを信じている。だけど、写真や録音にショックを受けなかったわけじゃない。
信じているから、つらい……その微妙な心境は、本当に彼女の言う通りだ。
「……そう、ですね。これは……俺が、隙を作ったのがいけなかった。まつりには二度と、こんな思いをさせないように、これからは自分の行動を改めます」
さすがの灯也さんも、理想の夫婦だと憧れていた二人からのお叱りの言葉に、珍しく弱気な表情を見せた。