副社長は花嫁教育にご執心
結局、雰囲気は最悪のまま私たちは会長の家をおいとまし、私も灯也さんも言葉少なに帰路についた。
マンションに着いても、私たち夫婦の間を流れる空気は重く、沈黙とため息ばかりが繰り返される時間が続いた。
……このままじゃダメだ。きちんと、夫婦で話し合わないと。私は意を決して、灯也さんの座るソファまで行き、すぐ隣に腰掛けた。
疲れた様子で髪をかきあげる彼の膝に手を置き、おずおず顔をのぞき込む。
「灯也さん……大丈夫ですか?」
「いや……俺はいいんだ。むしろ、まつりの方が嫌な思いをしただろ。ごめんな、俺のせいで。あの写真に映っていたのはたぶん俺で間違いない。クリスマスくらいに俺たちちょっとすれ違ったことがあっただろ? あのとき、まつりと向き合うより酒に逃げた情けない夜があって……もちろんあの女とは何もないけど、ホント、浅はかだったよ」
優しく頬に触れられ、私は首を横に振った。
灯也さんの話した“情けない夜”のことは私も覚えている。夜遅くに酔って帰ってきて、バスルームで私を責めたときのことだろう。
あの時彼が苦しんでいたのは、私と佐助のことを誤解して嫉妬していたから。そんな彼が、バーで出会った初対面の女性に何かするなんて考えられないよ。
……やっぱり写真も録音も、何かの罠としか思えない。
「私は、大丈夫です。あの、三井さんって、何者なんですか?」
夫婦そろって、灯也さんに敵意むき出しな感じが、ものすごく腹立たしかった。……特に風船マンの方。