副社長は花嫁教育にご執心
「……俺、職場の嫌がらせで苦しんでたまつりに気が付けなかったこと、今でも後悔してるんだ。一番守りたい人を守れなくてどうするって。……でも、今回は事が起きる前に、まつりをくだらないゴタゴタから遠ざけることができる。……それだけは、よかったと思ってるんだ」
灯也は、まるでもう離婚を覚悟しているかのような、諦めと憂いの滲んだ、静かな瞳をしていて。
私は、こんな結末いやなのに……彼の妙に穏やかな表情のせいで、口に出せなかった。
その代わりに大粒の涙が、ぽろっと頬を伝って落ちる。
「灯也さん……ひとつだけ、聞かせてください」
私は肩を震わせながら、彼を見つめる。灯也さんは静かに頷いた。
「私のこと、どう思ってますか……?」
その一瞬、灯也さんの瞳が揺れた。この先に待っているのは別れしかないのにと、おそらく、伝えるかどうか迷っているのだろう。
結局、灯也さんが選んだのは……お互いの気持ちから目を逸らすことだった。
「ごめん、まつり……。俺、言えないよ」
「なんでですか……!」
「わかってくれ。それがいいんだ、お互いのために」
灯也さんの瞳は、膜を張ったように切なく潤んでいた。
そんな目をされたら、言われなくても伝わってくるよ。灯也さんが、本当は離婚なんかしたくないってこと……。
ねえ、灯也さん。私たちには、もっと別の道があるんじゃないんですか……?
彼の消極的な選択にとうてい納得できない私だったけど、灯也さんだってつらいのだと思うと、それ以上は何も言えなかった。