副社長は花嫁教育にご執心
バブリー男に制裁を
灯也さんは、ベッドで眠る間もずっと私を抱きしめていてくれた。
彼はきっと、さよならの抱擁のつもりだったのだろう。でも、私はそんなつもりはなかった。
どうにか、彼の気持ちを変えさせることはできないのか。別れずに済む方法はないのかって、ずっと考えていた。
そして翌日、私は本心を隠し、彼の意思を尊重する振りをしてこう言った。
「ちょっと、出掛けてきます。……離婚届を取りに」
“離婚届”という言葉は予想以上に重い響きを持ち、私たちの間に一瞬気まずい空気が流れた。
「……俺も一緒に行こうか?」
「二人で離婚届を取りに行く夫婦って、おかしくないですか?」
苦笑して言えば、灯也さんも「それもそうか」と微妙な笑みを浮かべた。
どうしても取り繕えない、ぎこちない雰囲気。私はそれを振り切るようにしてひとり、マンションの部屋を出た。
しかし、向かった先は区役所なんじゃない。
「ホテル・プレリュード……ここだ」
実は朝早く、灯也さんには内緒でとある人物とアポを取っていた私。
その人物に指定されたホテルの前で、気合を入れるためにぎゅっとこぶしを握った。
煌びやかな装飾が施された自動ドアが開くと、目に飛び込んできた真っ金金の世界に一瞬目がくらんだ。