副社長は花嫁教育にご執心
「ま、まぶしい……」
どうやら、ロビーの壁一面に金箔が張り付けられているらしい。それに加え、よくわからない魚が描かれた巨大絵画がいくつも飾ってあり、柱や窓のデザインも和洋折衷でごちゃごちゃしている。
ホテルというか、趣味の悪い竜宮城?と、謎の内装デザインに辟易(へきえき)しながら約束のカフェに向かった。
私より先に来ていたその人は、二人席のテーブルについてこちらに手を振っていた。
「すみません、お待たせしました」
「いやいや、またまつりさんとお話しできてうれしいよ」
ニコニコと目を細めるその人は、昨日お会いしたばかりの黒川会長。仕立てのよさそうなジャケットを身に着けていて、お洒落なおじさまという感じだ。
彼と会う約束をしたのは他でもない。灯也さんが本気で私と離婚しようとしているというのを、彼に相談するためだ。
お互いに珈琲を飲みながら、私は昨日会長の家から帰った後のことを簡単に説明した。
「おやおや、そこまで思いつめてしまったとは……設楽くんは意外とナイーブなんだな」
会長は、昨日の厳しい様子とは打って変わって、口ぶりも表情もフランクだ。そんな彼の態度に、私はやっぱり、と確信する。
「……会長は、三井さんに土地を売る気はないんですね?」