副社長は花嫁教育にご執心
昨夜、ずっと考えていたのだ。あんなに性格の悪さが丸出しの三井夫妻に、人のいい黒川会長ご夫妻が騙されたりするかなって。
彼らが灯也さんに厳しいことを言ったのは、何か他に目的があったんじゃないかなと思えて。
「さすがだなぁまつりさん。まぁでも、この趣味の悪いホテルを見りゃわかるだろう。三井くんのセンスは最悪だ。バブル時代をこれでもかというくらい引きずってる」
このホテルを指定したのは、黒川会長だ。そして、ここの経営者は他でもない三井さんそのひと。
つまり会長は、三井さんという人間をどう思っているか、実際に彼のホテルを見せることで私に伝えたかったのだろう。
「入口の金箔にはびっくりしました」
「だろう? まったく、私の土地にまでこんなのを建てられたらたまったもんじゃない」
これでもかというくらいに嫌そうな顔をして、黒川会長は吐き捨てた。あからさまな態度に思わず笑みをこぼしつつ、彼の本心を尋ねる。
「じゃあ、昨日彼の話に乗せられたように振舞ったのは、どうしてだったんですか?」
黒川会長は珈琲に口をつけ、それから穏やかに話し始める。