副社長は花嫁教育にご執心
「ん」
唇に押し付けるような仕草をされ、まさか食べろってこと?と眉根を寄せる。
「早くしろ。こぼれる」
不本意極まりなかったけれど、私は仕方なく口を開けた。押し込まれたご飯をもぐもぐ咀嚼しながらも、意味が分からず怪訝な顔で呟く。
「……美味しい、ですけど」
「じゃあ次、お前の番」
そう言われて、箸と丼を渡された。……ああ。今のと同じようにして食べさせてくれって、そういうことか。
……って、なんで私がそんなことしなきゃならないの!?
「し、支配人にもちゃんと自分の手があるじゃないですか! 自分で食べてください!」
「そういう問題じゃない。俺だって疲れてれば、嫁に甘えたくなる時もある」
ま、まだ嫁じゃないし! と思いつつも支配人を観察すると、じっさい表情にどことなく疲労の色が見えた。
この施設で一番偉い立場だもんね……昨日も私のせいで遅くまでタイルの補修をしてたんだろうし、大丈夫かな。
「……お疲れなんですか?」
「お、いいなその心配してくれてる顔。今日はそれもらえただけで許してやるか。カツ丼はお前の貴重な食事だしな」
言葉とともにぽん、と頭に手を乗せられた。