副社長は花嫁教育にご執心


「ほら、今日は何でも好きなものを頼むといい。きみの働きで僕は忌々しい設楽の御曹司を蹴落とし、この国のホテル王になれるんだからな」

設楽の、御曹司……? ちょっと、詳しく聞かせなさいよ……。

私は背後のテーブル席に注意を向け、耳をダンボにした。

「ふふ、ありがとう。でもいいの? 自分の経営するホテルでこんなに堂々と密会してて、あなたこそ写真に撮られちゃうんじゃない?」

「ふん、平気さ。綾子の奴、設楽を貶める記事を書くのに必死だからな。それにまさか、自分にネタを売った女が夫の不倫相手だとは、夢にも思うまい」

な……なんですって……? 驚愕の表情で、私と会長は視線を合わせた。

今の会話が本当なら、すべての黒幕はこの風船男、三井――!

「みっちーったら、ホント悪人。でもそんなとこが好き」

「ふはははは。俺もな、がりがりの綾子より、ボディコンが似合いそうなむちむちのお前の方が好みなのだよ」

「やだ、えっち~」

怒り心頭のはずが、低レベル過ぎる会話に、脱力してしまう。今どきボディコンって……ほんとに、バブルかぶれだわこの男。

しかし、許せない。奥さんを裏切るようなことをしているのは本当は自分のくせに、商売敵である灯也さんを、こんな卑怯な手で罠に嵌めようとしているなんて……!


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