副社長は花嫁教育にご執心
思わずガタンと席を立ちそうになったけど、会長の手にぐっと押さえられて、私は目を瞬かせる。彼は口元にしっと人差し指を立て、それから携帯でどこかに電話をかけ始めた。
「もしもし、綾子さんかね? 今、ちょっと急ぎの用事で会えんかと……ああ。ホテル・プレリュードだ」
か、会長……まさか、綾子さんをこの場に?
通話を終え、携帯をしまった彼は、また悪戯っぽいウインクを私に送る。
も、もしかして、これからすさまじい修羅場が待っているんじゃ……。
真相が明らかになったことはよかったけれど、三井夫妻に訪れるであろう嵐のことを思うと、喜んでばかりもいられなかった。一体、どうなっちゃうんだろう……。
*
「も、もうしませんから……お願いだから、綾子」
「別にいいのよ? このままボディコンがお似合いの女性と関係を続けていただいて。それにしても黒川会長に電話をいただけて良かったわぁ。多額の慰謝料を請求するのに必要な不貞の証拠が思う存分手に入ったもの。それに、このことで設楽さんのネタよりよっぽど面白い記事が書けそうだわ」
「あ、綾子ぉぉぉ。お願いだから、記事にするのだけは……」
「あらあら、その泣いて縋る情けない顔も載せようかしらねえ」