副社長は花嫁教育にご執心
「夫婦ってのは、仲直りの後は燃えるもんだから」
“燃える”の意味をなんとなく察した私は、火が付いたように顔が熱くなった。
まったく、会長ってば……そんなことまで心配してくださらなくていいのに。
結局、黒川会長が勧めるままに軽い食事をご馳走になってから、ホテルを後にした私。
予定より遅くなってしまい、はやる気持ちをおさえつつタクシーをつかまえ自宅に向かう。
灯也さんは、私が離婚届を持ってくると思って家で待っている。覚悟を決めたように振舞ってはいても、きっと、胸を痛めているはずだ。
早く、彼に真実を伝えなきゃ――。
マンションに帰りついた時、灯也さんはリビングの窓際でたそがれていた。
まだ午後の明るいうちだというのに、手に持ったロックグラスの中にはお酒らしき琥珀色の液体が。あれは、ウイスキー……?
私の足音に気付いて氷をカランと鳴らして振り向いた彼の瞳のふちが、うっすらと赤くなっていたので私は驚いた。
「……おかえり。遅かったな」
「ただいま、です。灯也さん、どうしたんですかその目……」
まさか、泣いていたんじゃ……?
不安げに駆け寄ると、灯也さんは無理に口の端をゆがめ、笑ってみせる。