副社長は花嫁教育にご執心
ええと……支配人はどうしてそんなに嬉しそうなの?私、『お疲れなんですか』って聞いてだけなんだけど……嫁の役目って、そんなことでいいの?
自分の言葉ひとつで表情が一気に穏やかになった支配人に、胸の奥がとくんと優しい音を立てた。
そのまま軽く微笑んで私のもとを去ろうとした彼を、私は咄嗟に呼び止める。
「あのっ」
「……ん?」
振り向いた彼が、驚いて目を見開く。たぶん私が、さっきまで彼の望んでいた例の行動をとっているからだ。
「その……よかったら、どうぞ」
玉ねぎと卵とカツとご飯とが全部味わえるように気を遣って箸を持っているから、手がプルプル震える。
は、恥ずかしいから早く食べて欲しいんだけど……。
居たたまれなさに頬が熱くなるのを感じていると、ゆっくり戻ってきた彼が長身を屈め、子どもにみたいに大きな口を開け、ぱくりと箸にかぶりついた。
ひと口分のカツ丼を咀嚼し終わった彼は、ふっと表情をほころばせる。
「やっぱり、疲労回復効果抜群だ。ありがとな、まつり」