副社長は花嫁教育にご執心
「あ、これね、今月からの新商品なの。食べる?」
「えーいいの?……って、なんでそんな普通なのあんた」
「え?」
「私、すんごいひどいことしたと思うんだけど、なんでそんな普通にしてられるのって聞いてるの」
心底わけがわからないという顔をされ、私はうーんと首を捻る。
「だって、色々あったけど今はすごく幸せだし?」
「は、腹立つわね。やっぱこのお詫びの品持って帰ろうかな」
「お詫びの品?」
目を瞬かせて聞き返した私に、久美ちゃんは不本意そうにしながらも、有名な洋菓子店さんの紙袋を差し出した。
「これは……?」
ぽかんとする私に、彼女は目を逸らしたままで、現在の心境を語り始めた。
「ごめん、まつりちゃん……ほんとに、悪い事したと思ってる。今ね、支配人の紹介で、私以外に女性が一人もいない職場で働いてるの。お給料は下がったけど、同性ゆえの変な嫉妬とかがなくて、すごく働きやすくて……その、感謝してます。と、お伝えください」
「灯也さんがそんなことを……」
私には何も言ってこないから、知らなかった。まさか、彼女に新しい職場を紹介していたなんて。