副社長は花嫁教育にご執心
支配人として、お客様に上品な笑顔を向けているのは何度も見たことがあったけれど、それとは少し違う、少年っぽさの滲んだ無邪気な笑みに、ドキッとしてしまった。
しかも、いきなり名前呼びされるなんて……。
照れる私に気付いているのかいないのか、支配人はかすかな笑みを残して休憩室を出て行った。
「し、設楽まつり……いよいよ、現実味を帯びてまいりました」
ひとりになった休憩室。照れ隠しのつもりで自分の心の中を実況してみたけど、余計にドキドキが増してしまった。
気を取り直してカツ丼を食べようとしても、そういえばこの箸はさっき支配人が……!とか過剰に考えすぎて、内心あたふたする。
「うう、間接キス……」
恋愛に無頓着すぎる人生を送ってきた私にとっては、そんなことも初めての経験。
一口ごとにいちいち意識していたら、完食するのに異様に時間がかかってしまった。