副社長は花嫁教育にご執心
「いやいや、嫁のだから、見るだろ。あとさわる」
「え、さわ……っ?」
以前もどこかで交わしたような会話をしながら、俺は椅子から立ちあがる。
動揺するまつりにクスッと笑みをこぼし、ドレス姿の彼女の背中に腕を回して、そっと抱きしめた。
「……本当に、きれいだよ」
小さな赤い耳たぶのそばでささやけば、さらに照れまくって瞳を潤ませたまつりが、「ありがとう」と優しく微笑んだ。
あれ、なんか……はじめて敬語、抜けたか?
今まで、俺の方が年上ということと、同じ施設内の支配人と従業員という関係性もあったからか、まつりは基本俺に対しては敬語だった。
そういう言葉遣いを無理して直す必要はないと思ってたけど、まつりにはもう少し俺に対して壁を取り払って欲しいと思っていたから、「ありがとう」というたった一言だけど、なんとなくうれしい。
「ちなみにまつり、そろそろ呼び捨ては?」
「え? ……灯也さんのことを?」
「そう。灯也さんって言われるのも好きだけど、呼び捨ての方が、俺はまつりのものって感じられそうだから」