副社長は花嫁教育にご執心
「すいましぇん」
あれれ、呂律が上手く回らないや。ホント、この辺にしといたほうがいいかも。ミスが多いというのは真実だし酔っぱらっている場合じゃない。
とは思っても、酔っ払いだからそんなすぐに自分は制御できない。重くなってきた頭を支えるため、お行儀悪くテーブルに頬杖をついた私に、弟が呆れる。
「設楽さん、もう遅いかもです」
「……みたいだな。今夜は家に泊まって、明日は車で一緒に出勤するか?」
あらやだ、いきなりお泊りなんて支配人たら積極的。頬杖でふにゃっと潰れた顔をしているのに、酔った私はいい女ぶってこんなことを言う。
「支配人、私に変なことする気ですね?」
「あのな……俺だって、男のおの字も知らない小娘にいきなり迫ったりするほど飢えてないよ」
「ホントかなぁ」
じとっとした疑いの眼差しを向けると、支配人は疲れたようにため息を吐いた。
そして向かいの席から立ち遊太の隣に座る私の腕を引っ張って、椅子から立たせる。
「もうダメだこいつ、完全に出来上がってる。先に出るぞ。すみませんが俺たちはここで失礼します。遊太さんはごゆっくり」
「はい。姉さんのこと、よろしくお願いします!」
私は遊太の方を振り返り、ニコニコしながら「ばいばーい」と手を振った。