副社長は花嫁教育にご執心
「い、一体どんな文面で?」
「ん? ……私事ではありますが、椿庵従業員野々原まつりさんと婚約いたしました。今後も支配人として一層精進を……というような、よくある感じだ」
いやいや、よくあるのは“婚約”でなくて“結婚”とか“入籍”だし、そういうの送るのって、芸能人だけじゃないの?
「……まだ籍も入れてないのに早すぎません?」
「籍なんかすぐに入れればいい。でもそれより先に、お前は俺のものなんだと周知させておきたかった」
トン、と背後の窓に手を突き、顔を近づけてくる支配人に、胸がどくどくと脈打つ。
彼の纏っているらしい甘く色っぽい香水の香りもして、私は慣れない状況に目を白黒させてしまう。
「ち、近いです、支配人……」
「二人きりの時にそれはないだろ。“灯也”だ」
「……灯也、さん?」
頼りなく彼の名を口に出すと、満足げに口角を上げた彼が、さらに顔を近づけて――。
ちゅ、と音がたったのと同時に、額に柔らかい感触が。
い、今……おでこにキスされた!?