副社長は花嫁教育にご執心
「最初だからな、これくらいで勘弁してやる。……って、どんだけ顔赤いんだよ」
灯也さんはぷっと吹き出し、私の頬をむにっと摘まんだ。
し、仕方ないでしょう! こういうのは初めてなんですから!
「……まぁ、つまりはそういう新鮮な反応を他の男には見せたくないから、早々に結婚の意思を発表したわけだ。わかったか?」
むくれる私に灯也さんはそんな説明を加えるけれど、そこまで心配してもらわなくても他の男の人に言い寄られたりする可能性なんか、ないのにな。
「こんな女を嫁にしたいなんて物好き、灯也さんしかいませんよ」
「ああ、ホント物好きだよなぁ。自分でも思う」
「ちょっ! そこ肯定されると心折れるんですけど」
「……自分で言い出したくせに。大丈夫だよ、まつり。俺は夫なんだ。お前をいつだって守ってやる」
なんなんだろう、この人……。私のことからかったかと思えば、最終的にはいつも優しい言葉で安心させてくれる。
まだ知り合って間もないし、交わした言葉も多くないけど、せっかく結婚するんだもの。私……できたら好きになりたいな、灯也さんのこと。
私に貸す寝間着を探しに部屋を出て行く後ろ姿を見送りながら、漠然とそんなことを思った。